技能実習生の受け入れを検討するとき、多くの企業がまず考えるのは「来日してから、どう教育するか」だろう。だが、ある運送会社との商談で出てきたのは、それより前の段階——まだ本人が母国にいる、渡航前の面接の時点から始まっているコミュニケーションの話だった。
技能実習生の「失踪」という現実
技能実習生の失踪は、社会的にも課題として取り上げられることが増えている。この記事でその全体像を数字で語ることはしない。ここで書けるのは、今回の商談相手であるこの運送会社にとって、それが遠い他人事ではなかった、という事実だけだ。
担当者によれば、関連会社で実際に技能実習生の失踪事例があったという。この経験から、受け入れる本人が孤立せず、来日前の段階からコミュニケーションを構築しておく必要性を強く認識していた。今回の商談は、その問題意識から始まっている。
ある運送会社の検討
この会社は神奈川県にある運送会社で、主な業務はユニック車(クレーン付きトラック)を使った運送・荷役作業だ。一般的な配送のようにボックス車で荷物を運ぶだけでなく、クレーン操作を伴う点が特徴で、現場には危険作業がついて回る。
来年(2027年)には、インドネシア人技能実習生を数名程度受け入れる予定で、その準備の一環としてKOETEの導入を検討している。窓口を担当しているのは、社内でIT分野に詳しいという担当者だ。社長から「調べて提案してほしい」と指示を受け、商談の場に来たという。
この会社にはもともと、免許取立ての新人社員が先輩に同乗して学ぶ「助手席同乗運行」という教育の仕組みがある。同乗して学び、日報に良かった点・悪かった点・危険予知を記入し、指導ドライバーや管理者がコメントを返す、というOJTの流れだ。担当者との話の中では、この教育記録に、KOETEの改善提案・トラブル報告といった機能を組み合わせるアイデアも出た。すでにある教育の仕組みに、母国語でのやり取りを重ねられないか、という発想だ。
「その場で入力」が答えではない
ここで誤解しておきたくないことがある。クレーンを操作している最中や、荷役作業のまさにその瞬間に、スマホに文字を打ち込んで危険を伝える——そんな場面は現実にはあり得ない。手も目も塞がっている作業中に入力を挟む余地はないし、そこにアプリを持ち出す発想自体が現場を分かっていない。
商談で担当者と一致したのは、むしろ逆の発想だった。危険を感じたその瞬間にどう入力するかではなく、その瞬間が来る前に、本人がどれだけ「言える」関係と習慣を作れているかという話だ。
この会社にはもともと、「助手席同乗運行」という教育の仕組みがある。作業が終わったあと、日報に良かった点・悪かった点・危険予知を記入し、指導ドライバーや管理者がコメントを返す。危険の共有は、作業の最中ではなく、朝礼や作業前後の振り返りという、本来立ち止まって話せるタイミングで行われるものだ。
問題は、このタイミングですら、日本語でしか報告できなければ、本人が感じた違和感の半分も伝わらないということだ。「なんとなく危ない気がした」「先輩のやり方と違う気がした」——こうした言語化しづらい感覚は、拙い日本語ではまず削ぎ落とされる。母国語で書ければ、この振り返りの質そのものが変わる。
Prediksi bahaya: Sesaat sebelum menurunkan muatan yang digantung, saya merasa agak sulit melihat mobil yang mendekat dari belakang. Lain kali saya ingin memeriksa sekali lagi sebelum menurunkannya.
日本語訳(管理者に届く内容)危険予知:吊り荷を下ろす直前、後方から車が近づいてくるのが少し見えにくいと感じました。次はもう一度確認してから下ろしたいです。
よく気づいた。次からは声をかけてから下ろそう。
Bagus, kamu jeli. Mulai sekarang, ayo saling memberi tahu dulu sebelum menurunkan.▲ KOETEの日報機能の例(イメージ)。危険の共有は、作業中の入力ではなく、振り返りの場で母国語のまま行う。
最も効くユースケース:渡航前からの信頼構築
商談を通じて、担当者と最も合意が強かったのは、実は現場の安全確認よりも前の段階の使い方だった。それが、渡航前から候補者本人とアプリでやり取りし、本音を引き出すという使い方だ。
この会社では、現地での採用面接そのものを、コミュニケーションの起点にできないか、という話になった。候補者をアプリに招待し、母国語のまま相互にやり取りできる環境を用意したうえで、「実際にはどんな仕事ですか」「うちはこういう環境だが大丈夫ですか」といったことを、面接の場で本人の母国語で確認し合う、というイメージだ。
採用が決まってから来日までの間も、同じアプリの中でやり取りを続けられれば、本人にとって「知らない国に、知らない会社に、いきなり飛び込む」感覚は変わってくる。来日前の段階から少しずつ関係ができていれば、現場に入ってからのすれ違いも減らせるはずだ、というのがこの会社の見立てだった。
失踪という最悪の結果に至る前段階には、たいてい「誰にも相談できなかった」「言い出せなかった」という孤立がある。渡航前からの対話は、その孤立を作らないための、一番早い一歩になりうる。
KOETEという選択肢
これらの活用イメージを支えているのは、KOETEの基本的な仕組みそのものだ。管理者は日本語で書くだけ、相手にはその人の母国語で届く。相手が母国語で書けば、管理者には日本語で届く。この一往復を、現地の面接から、来日後の現場まで、同じアプリの中で続けられる。
今回の商談で話題になった機能のうち、この記事のテーマに直結するのは次の3つだ。
- AI翻訳(13言語対応):インドネシア語を含め、文脈を踏まえた翻訳でやり取りできる
- 改善提案・トラブル報告:助手席同乗運行などの教育記録と組み合わせ、良かった点・危険だった点を双方向で記録できる
- やり取りの記録:渡航前の面接から現場での報告まで、誰が・いつ・何を伝えたかが記録として残る
なお、KOETEはSaaS(クラウドサービス)として提供しており、現場ごとの個別カスタム開発は行っていない。既存の機能とテンプレートの範囲で、どの現場でも使える形になっている。また翻訳はあくまで日常の業務コミュニケーションを支援するものであり、契約書などの法的文書への利用は推奨していない。
まとめ
技能実習生の受け入れは、来日してからではなく、渡航前の面接の時点からすでに始まっている。この運送会社が検討しているのは、その入り口から現場の安全確認まで、母国語でのやり取りを途切れさせないという考え方だ。
「言った/言わない」の防止も、危険作業の安全確認も、根っこにあるのは同じ課題——本人が本音を言える場所があるかどうかだ。来日前からその場所を用意しておくことが、失踪や早期離職のリスクを減らす、地道だが確実な一歩になる。
KOETE