こんな場面に、心当たりはないだろうか。
朝礼で「その配線、危ないから触るな」と外国人スタッフに伝えた。本人は神妙な顔でうなずき、その場は収まった。ところが数日後、別の作業のついでに同じ配線の近くを片付けようとして、ヒヤリとする場面があった。慌てて確認すると、本人は「危ないのは分かっていたが、なぜ危ないのか、どこまでが範囲なのかは分からなかった」と話す。「危ない」は伝わっていた。しかし"なぜ"は届いていなかった。
これは特別なことではない。日本人スタッフ同士でも、「危ない」という一言だけでは、危険の理由や範囲までは伝わりきらないことがある。母国語が違う相手であれば、なおさらこの差が開きやすい。本人の注意力の問題というより、安全に関する情報が、口頭・一回きり・確認なしで流れてしまっているという、伝え方の構造の問題であることが多い。
この記事では、なぜ安全教育や危険予知が外国人スタッフに伝わりにくいのか、放置するとどうなるのか、そしてどう直していけばいいのかを、現場目線で整理する。なお、労災防止は法令や業界ごとの安全衛生管理体制に関わる領域であり、本記事の内容は一般的な考え方の整理にとどまる。実際の対策は、労働安全衛生の専門家や既存の安全管理体制とあわせて検討してほしい。
なぜ安全教育・危険予知は外国人スタッフに伝わりにくいのか?
安全に関する指示は、他の業務指示以上に「伝わったつもり」が起きやすい領域だ。背景には主に3つの要因がある。
| 要因 | 現場で起きていること |
|---|---|
| "危ない"の一言止まり | 「危ない」「気をつけて」という短い注意喚起だけで終わり、何がどう危ないのかという理由が説明されない |
| 専門用語・略称の壁 | 「立入禁止」「巻き込まれ」「KY(危険予知)」など、現場特有の言葉が学習中の相手にはそのまま通じない |
| 確認の欠如 | 安全教育後に「わかった?」と聞いても、遠慮や気まずさからとりあえず「はい」と答えてしまうことがある |
危険予知活動(KY活動)は、厚生労働省が「見る」「考える」「話し合う」「行動する」という4つのプロセスで進めることを示している。この一連のやり取りは、本来チームで危険を洗い出し、対策を話し合う双方向の活動だ。
▲ KY活動の4ステップ(厚生労働省が示す進め方)。言葉の壁があると「話し合う」が管理者からの一方通行になりやすく、本人の納得を伴った理解に至らないまま作業に入ってしまう。
結果として、本人は危険の存在は知っていても、なぜ危ないのか・どう避ければいいのかという納得を伴った理解には至らないまま作業に入ってしまう。そして、うなずいたから理解した、とは限らない。日本語がまだ得意でない相手ほど、聞き返すこと自体に気後れしてしまい、分かったふりで乗り切ってしまうことがある。これは本人の問題というより、聞き返しにくい空気や、忙しい現場で「もう一度説明して」と言い出しにくい構造の問題だ。
このまま放置すると何が起こる?
安全教育の"伝わったつもり"は、単なる気まずさでは終わらない。積み重なると、現場に実害の形で跳ね返ってくる。
- ヒヤリハットの増加:危険の理由を理解しないまま作業を続けるため、同じ危険な行動を繰り返しやすくなる
- 労災リスク:ヒヤリハットが積み重なれば、実際の事故につながる可能性が高まる
- 説明責任の空白:安全教育を口頭のみで行っていると、「いつ・何を・どう伝えたか」を後から示す記録が手元に残らない
- 信頼関係の摩耗:「何度言っても危険な行動をやめない」という誤解が積み重なり、本人のやる気や定着にも影響する
(統計開始以来初の6,000人超)
(2019年統計開始以来最多)
▲ 厚生労働省の統計による。出典:厚生労働省「令和6年労働災害発生状況について」
厚生労働省の統計によると、外国人労働者の労働災害による死傷者数は2024年に6,244人となり、統計開始以来初めて6,000人を超えた。死亡者数も39人と、2019年の統計開始以来最多となっている(出典:厚生労働省「令和6年労働災害発生状況について」)。また、厚生労働省は第14次労働災害防止計画で、「外国人労働者の死傷年千人率を2027年までに全体平均以下とする」というアウトカム指標を掲げている。裏を返せば、外国人労働者の労災発生率は現状、全体平均より高い状態が続いているということだ。安全教育の伝え方は、現場管理者にとって既に他人事ではない課題になっている。
どう直すのか? ─ "危ない"から"なぜ危ないか"への切り替え
対策の考え方は、外国人スタッフに指示が伝わらない現場の直し方で扱った一般的な指示の伝え方と同じ土台の上にある。安全教育に絞って言えば、「危ない」の一言で終わらせず、理由まで含めて本人の母国語の文字にし、読んで確認したところまで記録に残す、という切り替えになる。
やることは大きく3つに整理できる。
- 理由まで文字にする:「危ない」だけでなく、何がどう危ないのか、どうすれば避けられるのかまで書き残す
- 母国語にする:日本語のままではなく、本人が読んで理解できる言語にする
- 確認を記録する:本人が「読んだ・理解した」ことを、後から追える形で残す
優先してこの形に切り替えたいのは、次のような場面だ。
- 危険箇所・立入禁止エリア・巻き込まれ注意箇所などの周知
- 新しい機械・設備を任せる前の安全教育
- KY活動(危険予知活動)で洗い出した危険とその対策
- 事故・ヒヤリハットが発生したあとの再発防止の共有
すべてを一気に変える必要はない。まずは事故につながりやすい箇所・作業から優先順位をつけて始めるのが現実的だろう。なお、この切り替えはあくまで「本人が理解し、確認したという記録を残す」ことが目的であり、記録があること自体が安全を保証するわけではない。既存の安全管理体制(安全衛生委員会・作業手順書・OJTなど)を置き換えるものではなく、その土台をより確実にするための一手として位置づけたい。
現場ではどう実現するか ─ KOETEという選択肢
とはいえ、「理由まで含めて母国語で文字にし、確認まで記録する」を人力だけでやろうとすると、現実的な壁にぶつかる。管理者の多くは、スタッフの母国語を話せないし書けない。安全教育のたびに通訳を挟むのも、コストと時間の面で現実的ではない。
ここを埋めるのが、多国籍チームの報連相に特化したAI翻訳搭載チャットKOETEだ。仕組みはシンプルで、管理者は日本語で書くだけ、相手にはその人の母国語で届く。お互いが母国語のまま、その場でやり取りできる。原文(日本語)は常に併記され、やり取りはすべて記録として残る。
このプレス機の前は、動いている間は絶対に立ち入らないでください。センサーの死角があり、気づかず巻き込まれる事故が起きています。作業前に必ず停止を確認してください。
インドネシア語訳Jangan pernah berdiri di depan mesin press ini selagi masih bergerak. Ada titik buta pada sensor, dan pernah terjadi kecelakaan tergulung tanpa disadari. Pastikan mesin sudah berhenti sebelum mulai bekerja.
Baik, saya baru tahu ada titik buta di sensor. Mulai sekarang saya akan selalu memastikan mesin berhenti dulu.
(分かりました、センサーに死角があるとは初めて知りました。これから必ず停止を確認します。)▲ KOETEのチャット画面の例。日本語で書いた"なぜ"が、相手には母国語で届く。
KOETEの機能のうち、この記事のテーマに直結するのは次の3つだ。
- AI翻訳(13言語対応):タガログ語・クメール語など、対応の難しいマイナー言語も含めて自動翻訳。安全教育の内容を、理由まで含めて本人の母国語で届けられる
- トラブル報告:ヒヤリハットや異常の発生→対応→解決の流れをスレッドで追跡でき、再発防止の共有漏れを防ぐ
- 指導記録機能:安全教育やKY活動で伝えた注意事項を、本人が受け取り、読んだ・認識したことを記録として残せる機能。あくまで本人が受け取り、認識したことの記録であり、それ自体が法的な同意や合意を意味するものではなく、これだけで安全対策が完結するわけでもない。既存の安全管理体制を補強する一材料として活用してほしい
口頭でのやり取りと違い、KOETEは翻訳が自動で入り、話題ごとにスレッドで整理され、対応状況がリアルタイムで確認できる点が異なる。安全教育の「言った/言わない」を減らすための土台として、記録が自然に積み上がっていく設計になっている。
まとめ ─ まずは一歩目から
外国人スタッフの労災リスクは、本人の注意力の問題というより、「危ない」という一言だけで終わり、"なぜ"危ないのかという理由が伝わっていない、という伝え方の構造に原因があることが多い。この構造を放置すると、ヒヤリハットの増加や労災リスクの高まり、事故が起きたときの説明責任の空白につながりやすい。
直す一歩目は難しいことではない。安全教育やKY活動の内容を、理由まで含めて母国語の文字にし、読んで確認したところまで記録に残す。まずは事故につながりやすい危険箇所や新しい機械の操作から始めてみるだけでも、"なぜ"の理解は着実に積み上がっていく。ただし、これは既存の安全管理体制を置き換えるものではなく、専門家や社内の安全衛生の枠組みとあわせて進めるべき取り組みであることは忘れないでほしい。
製造業・建設業をはじめ、外国人材の受け入れが進む現場での実務は「製造業向けKOETE」「建設業向けKOETE」でも紹介している。また、2027年に始まる育成就労制度のもとでは受入後の定着がより重要になる。制度の概要は「育成就労制度とは?技能実習との違いと、受入後に効く現場の準備」で解説している。
よくある質問
外国人スタッフの労災は、実際どれくらい起きているのですか?
厚生労働省の統計によると、外国人労働者の労働災害による死傷者数は2024年に6,244人となり、統計開始以来初めて6,000人を超えました。死亡者数も39人と過去最多です(出典:厚生労働省「令和6年労働災害発生状況について」)。労働災害発生率も全体平均より高い状態が続いており、2027年までに全体平均以下にするという政府目標が掲げられています。
KY(危険予知)活動とは何ですか?
作業前に「見る・考える・話し合う・行動する」という4つのプロセスで、その作業に潜む危険を洗い出し、対策を話し合う活動です。厚生労働省が示す進め方で、本来はチームでの双方向のやり取りが前提になっています。言葉の壁があると、この「話し合う」部分が一方通行になりやすい点が課題です。
「危ない」と伝えているのに、なぜ同じ危険を繰り返すのですか?
「危ない」という結果だけが伝わり、"なぜ"危ないのか、どうすれば避けられるのかという理由まで届いていないことが多いためです。理由への納得がないと、本人はその場をしのいでも、同じ状況で同じ危険な行動を繰り返してしまいがちです。
KOETEはこの問題にどう役立ちますか?
管理者が日本語で書くだけで、相手にはその人の母国語で届くAI翻訳搭載のチャットです。安全教育の内容を理由まで含めて多言語で届けられ、指導記録機能で本人が受け取り・認識したことを記録に残せます。ただし、この記録は労働安全衛生法上の安全教育やKY活動そのものを代替するものではなく、既存の安全管理体制と組み合わせて使うことを前提としています。
導入にかかる時間や費用はどれくらいですか?
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KOETE