ある製造現場で、こんな場面があった。配属されてまだ日が浅いタイ人スタッフが、後退してきたフォークリフトの死角に一瞬入りかけた。近くにいた班長がとっさに「危ない!」と叫んだが、その一言が本人に伝わるまでにわずかな間があった。結局、隣にいた別のスタッフが腕を引いて事なきを得たが、班長は後で振り返って思った。「今の一瞬で、伝わっていなかったら」。
この日のヒヤリハットは、特に報告書に残ることもなく、その場の「よかった」で終わった。似たような場面に心当たりがある製造現場は、決して少なくないはずだ。
なぜ「伝えたつもり」が起きるのか
タイの日系製造現場では、日本人の管理者は数人ほどと少数派で、現場の多くをタイ人スタッフが占めている。朝礼での指示も掲示物も、タイ語でのやり取りか、あるいはお互いに母国語でない英語に身振り手振りを交えたものになりがちだ。「危ない」「気をつけて」という一言は伝わっても、どちらの母国語でもないやり取りでは、"なぜ"危ないのかという理由まで届き切らないことが多い。忙しい生産ラインの中では、それでも「伝えた」ことになりがちだ。しかし、本人がその場で本当に理解し、危険の度合いや理由まで受け止められていたかどうかは、実のところ確認されないまま流れていくことが多い。
特に配属直後や人員が入れ替わるタイミング、繁忙期でラインの手が足りないときほど、一人ひとりへの丁寧な安全指導は後回しにされやすい。悪気があるわけではなく、構造的に「言った」で終わりやすい仕組みになっている、というのが実情に近い。
こうした"伝わったつもり"は、現場の実感とも重なる。ある在タイ製造業の管理者は、英語でのやり取りは「何が止まった」「何が壊れた」といった速報なら回るが、「なぜそうなったのか」「どう再発を防ぐか」まで踏み込む話になると、結局は通訳を入れないと伝わらない、と話す。別の日系企業では、日本人とタイ人スタッフの英語での意思疎通をやめて通訳に戻したい、という声が経営レベルの議題に上がった、という話も聞く。共通語であるはずの英語が、どちらの母国語でもないがゆえに、肝心なところで頼りきれないのだ。
このままだと何が起こりうるか
小さなヒヤリハットが積み重なると、より重大な労働災害につながりやすくなると言われている。しかも、口頭だけの指導は記録が残らないため、万が一事故が起きたときに「どんな安全指示をどう伝えていたか」を説明する材料も手元にない、という状態になりやすい。指導した側にとっても、指導を受けたはずの本人にとっても、後から振り返る手がかりがない。これは、双方にとって望ましい状態とは言えないだろう。
さらに、こうしたヒヤリハットは「本人が理解していなかった」こと自体が周囲に伝わりにくいという難しさもある。本人は分かったふりで頷いてしまうことがあるし、班長や先輩も「分かっているはず」という前提で次の作業に進んでしまう。すれ違いが表面化しないまま、同じような場面が繰り返されやすい構造だと言える。
タイ語で「伝わった」を記録に残すという考え方
ここで有効になりうるのが、安全教育やKY(危険予知)活動、日々の危険周知を、口頭や貼り紙だけでなく、本人のタイ語の文字として残すという発想だ。文字にしてタイ語で示せば、本人はその場で読み、理解した上で受け止められる。そして「伝えた」だけでなく「本人がタイ語で受け取り、確認した」というところまでを記録に残せる。基準を「言った」から「伝わった」に引き上げていく、という考え方に近い。
優先してタイ語化する候補としては、次のようなものが挙げられる。
- フォークリフトや搬送機器の死角、立入禁止エリアなどの危険箇所の周知
- 朝礼のKY活動で共有される、その日の作業固有の注意点
- 緊急時の避難経路や、異常を発見したときの報告先
- 新しい機械・工程を任せる際の操作上の注意点
すべてを一気に置き換える必要はなく、事故につながりやすい項目から優先順位をつけて始めるのが現実的だろう。
KOETEだとこう変わる
ここで見落とされがちなのが、日本人の管理者はタイ語を話せないし、書けないという点だ。「タイ語で伝えればいい」と分かっていても、本人だけでは難しい。通訳を挟めばコストも時間もかかり、"なぜ"のニュアンスも抜けやすい。
多言語チャットKOETEは、ちょうどここを埋める。所長は日本語で書くだけで、相手にはタイ語で届く——お互いが母国語のまま、その場で。原文(日本語)は常に併記され、やり取りは記録に残る。
特に安全教育の場面で使えるのが「指導記録」機能だ。指導・注意の内容を本人がタイ語で確認し、受領したという記録が残る。これは「伝えた・本人がタイ語で受け取った」という受領・認識の記録であり、この記録だけで解雇等の法的効力が生じるものではない。ただ、口頭のみで何も残らない状態と比べれば、指導の経緯を後からきちんと説明できる材料にはなる。
ライン作業員側からの異常報告やヒヤリハットの共有も、○△×と簡単なコメントで完結する日報テンプレートを通じてタイ語のまま行える。気づいたことを言葉にしづらい、という壁を少し下げる一助になる。
翻訳はあくまで日常の業務コミュニケーションを支援するものであり、法的文書等への利用は推奨していない。安全に関する重要事項は、必要に応じて専門家や既存の安全管理体制とあわせて運用することをおすすめする。
まずは一歩目から
安全教育の多言語化は、一度に全部を変える必要はない。まずは朝礼での注意喚起や、よくあるヒヤリハットの共有から、タイ語での配信と記録を試してみる。それだけでも「伝えたつもり」を減らす一歩目になりうる。こうした小さな一歩から始める在タイ日系の現場は、少しずつ増えている。
KOETEは、クレジットカード不要・最大20名まで、10日間無料で試すことができる。製造現場の多国籍チームマネジメントについては、タイの製造業向けページでも詳しく紹介している。
よくある質問
タイの製造現場で、安全指示がタイ人スタッフに伝わらないのはなぜ?
日本人の管理者は数人ほどと少数派で、指示はタイ語か、お互いに母国語でない英語になりがちだからです。「危ない」という一言は伝わっても、"なぜ"危ないのかという理由まで届き切らず、本人が理解しないまま流れてしまうことが多くあります。
「言った」で終わらせず「伝わった」を残すには?
安全教育やKY(危険予知)を、口頭や貼り紙だけでなく本人のタイ語の文字として示し、本人が読んで受領・確認したところまでを記録に残すことです。基準を「言った」から「伝わった」へ引き上げます。
KOETEは安全教育にどう役立ちますか?
12言語のAI翻訳で安全指示や注意事項を各スタッフの母国語に配信でき、「指導記録」機能で本人がタイ語で確認・受領した記録が残ります。原文と訳文は常に併記されるため、日本語の原文もそのまま残ります。
導入にかかる時間と費用は?
10日間の無料トライアル(クレジットカード不要・最大20名・全機能)から始められます。申込みの翌営業日に環境設定、バーツ建て請求にも対応しています。
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